2025年1月の投稿
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大学キャンパスと社会的障壁
- ダイバーシティ
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倉田賀世 ダイバーシティ推進室長
日本の法律は「障害者」をそれぞれの法律の中で定義しています。このうち、障害者の自立と共生を支援するための基本的な権利と義務を定める障害者基本法では、一定の機能障害があり、その「障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」を「障害者」としています。ここでは、身体や精神に関わる機能障害だけでなく、これに伴う生活の困難さや社会参加への支障なども含めて広い意味で「障害者」を捉えているのが特徴です。このように「障害者」を捉えた場合、熊本大学のキャンパスにはどのような「社会的障壁」があるのでしょうか。今回、車椅子を利用されている工学部の中村先生と黒髪南キャンパスを歩いてみました。
車椅子の場合、通れる通路が限られるので、遠回りをしないと目的地にたどり着けない事がままあります。これに加えて、通路にでこぼこが多いため、中村先生曰く、サスペンションの効かない車椅子の場合、衝撃がかなり腰に来るそうです。さらに、自転車が建物入り口のスロープを塞いでいて通れないこともあるそうです。これについては、本推進室で黄色のポールを設置しました。この他にも、座ったままでは届かないエレベーターのボタン、重くて押せない入り口のドアなど、キャンパス内の社会的障壁は思っていた以上に高めです。このような状況について中村先生からは「キャンパス内の建物は、一つ一つ違います。比較的新しい建物のエレベーター、部屋の入り口は使いやすいですが、古い建物には一人では使用できないものが多いです。現在、私は部屋移動の際、事務職員の方などに付き添いやドアの開閉をお願いしています。」といったコメントを頂いています。
社会的障壁は自転車の置き方を考えるなど、ほんの少しの気遣いで低くすることも可能です。共生社会に必要な意識や知識の醸成も大学での重要な学びの一つであるとすれば、いかに社会的障壁に気づく事ができるのか、気づかせることができるのかが、私達に問われているように思います。
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アンコンシャスバイアスを知り、大学内のダイバーシティを醸成させる
- ダイバーシティ
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富澤一仁 理事
人間は日々の生活の中で、意識せずにさまざまな判断や決定を行っています。これは、体験や文化、環境に根ざす“アンコンシャスバイアス”(無意識の偏見)と呼ばれるものが大きく関係しています。この無意識の偏見は、時には人間関係の裏で既成概念を成り立たせ誤った決定を促し、時には多様性や包括性の妥当な倫理を侵します。
大学の場では、アンコンシャスバイアスがさまざまな形で現れます。たとえば、「学生は実践的な経験よりも、学問的な能力を持っているはずだ」という偏見は、インターンシップやプロジェクトベースの枠でのチャンスを制限しかねません。また、「男性の教員の方が科学系に適している」というなどの偏見は、女性教員のキャリア発展を妥当に構成できない原因となりえます。これらは、決して悪意によるものではなく、これまでの経験や文化に根ざした無意識の行動です。しかし、このような偏見が、学内の多様性を捜尋し、個々人の能力を十分に発揮させることを妨げることになるため、解決に向けた努力が求められます。
アンコンシャスバイアスは、その人が育った環境や文化あるいは教育などにより形成されるため、どんなに努力しても無くすことはできないものであります。また「女性に荷物を運ぶことを頼むのはよくない。」「小さなお子さんがいる女性職員に出張させるのはよくない。」などの考えはアンコンシャスバイアスに該当しますが、気遣いや思いやりでもあります。社会活動を円滑にするためには、アンコンシャスバイアスを理解し、意識しながらお互いにコミュニケーションを取ることが重要と思われます。大学内でそのようなコミュニケーションを醸成するために、ダイバーシティや包括的な環境づくりを提高させるための教育プログラムを実施することが有効と考えられます。例えば、教員や学生を導入実践系のワークショップに参加させることで、他者の視点を理解し、ステレオタイプな思考を養うことができます。
大学は、多様な背景を持つ人々が集まる場所です。これは、多様性と包括性を促進するための大きな可能性を持ちながら、同時に、偏見の存在がさまざまな障害を生み出す場所でもあります。自分の思考や行動に小さな疑問を持ち、他者の視点を理解することで、それぞれが、より包括的な環境づくりへの一歩となります。熊本大学では、全学生・教職員がアンコンシャスバイアスに真摯に向き合い、ダイバーシティが醸成されるよう取り組んで参ります。
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