Interview 03

カナダで学んだ仕事と
プライベートのバランス感覚

小林 牧子

Makiko KOBAYASHI

大学院先端科学研究部教授

小林 牧子

教授への反論がきっかけとなった

プエルトリコの思い出

最初は研究者になる気はなく、大学受験も失敗したため地元の国立大学に入学しました。成り行きで大学院の推薦入試を受けることになり、第2希望の研究室の配属となりました。修士時代、その分野では世界的権威な指導教員の教授の発言に対して、「それは違うのではないか」と回答したところ、「修士で就職なんてもったいない、あなたは研究者に向いている。今の日本では女性研究者にとって良い状況ではないから、海外で博士号を取得しなさい。」と言われたのが、研究者を志すようになった直接のきっかけです。その先生の推薦のおかげで、2000年1月からカナダ、モントリオールのMcGill大学の博士後期課程に入学しました。研究テーマは今も続いている高温超音波センサです。私の最初の学会発表は2000年の10月、プエルトリコでのIEEE International Ultrasonics Symposiumでした。そこでの口頭発表が非常に反響が大きく、発表後の休憩時間にたくさんの人が会いにきてくれたのを今でも覚えていて、自分が研究者として認められた瞬間だと今でも感じています。

モントリオールでのワークライフバランスの実情

帰国後に感じた日本の変化

博士後期は、ほとんどの時間を客員教授でもある国立研究所で過ごしていました。新規ポリマーや軽金属作製中の超音波プロセスモニタリングをやるために、高温超音波センサを作るのが博士課程のテーマでした。そこで、新しい圧電材料を開発するために、圧電材料と超音波を同時に研究することになりました。モントリオールはフランス文化であるため、2000年当時からワークライフバランスが非常に充実しており、16時以降は一人での実験禁止、というルールがあるほどでした。なるべく短時間でサンプルを作り、翌日以降にサンプル作製を持ち越しても問題ないようにプロセス改良も行いました。研究所から帰宅後は、ハッピーアワーの時間帯にスポーツバーで総合格闘技を見たり、趣味の合唱に励んだりと楽しい日々を過ごしていました。今自分が主催する研究室でもコアタイムはなし、深夜や土日の実験は原則禁止にしています。学位取得後はそのまま国立研究所に就職しましたが、カナダに来てから10年を経過し、日本に戻りたくなりました。日本の恩師に相談したところ、「今日本は女性研究者が活躍しやすくなり、女性限定公募も出ているから、JRECINを見るように」と言われ探したところ、熊本大学の女性限定公募(平成22年度 科学科学技術振興調整費「女性研究者養成システム改革加速」事業)に応募し採用されました。教員としての経験も研究室主催の経験もない中、メンターの教員も付き、研究室立ち上げの支援もいただき、非常に助けられたことを覚えています。

カナダでは趣味のハイキングでカナディアンロッキーを観光

不妊治療を経て妊娠

子育ては研究にもプラスに

熊本で良い出会いがあり、結婚しました。子どもがほしかったため検査をした結果、体外受精を伴う不妊治療を行ない、幸い2回目で妊娠。ひとり研究室だったので、産前産後休業の間の学生のことや共同研究については悩みましたが、周りのサポートにかなり助けられました。復職後も4月までは認可の保育園には定員オーバーで入れず、街なかの無認可保育園にバスや徒歩で送迎していた日々を思い出します。子育てをしていなかった頃に比べて、仕事に割ける時間はかなり減っていますが、その中で仕事をしなくてはいけないので、効率化とタスク管理には気を付けています。キャパオーバーになることもありましたが、その時は素直に周囲の教員に助けを求めて応じてもらっています。子どもを持ってから、学生への優しさが自分では増したと思うので、子育ての経験は学生指導にプラスになっていると思いますし、子育てに関わらず、研究外の経験を積むことは、研究にとってもプラスになるはずです。カナダの国立研究所にいた頃は労働時間は少なかったですが、研究成果は充実していました。これは日本全体が変えていかなければならない問題だと思います。

女子学生未来の大学教員創造プロジェクト

田中 眞子

Mako TANAKA

大学院先端科学研究部育成助教

超耐熱(500℃)超音波センターにユニットチームで奮闘中!

私は現在、過酷な高温環境でも使用できる超音波センサーの研究に取り組んでいます。金型や発電設備などの現場では、通常のセンサーでは耐えられない温度条件で計測を行う必要があります。そのため、高温でも安定して動作する材料や構造を探究することが重要になります。ゾルゲル複合体という特殊な材料を用いた圧電デバイスは、そのような環境での応用が期待される技術の一つです。学部4年生から修士2年までは、機械科の中妻先生のもとでゾルゲル複合体を用いた高温用超音波センサーの応用研究に携わってきました。その後、博士課程からは、ゾルゲル複合体を開発された小林先生のもとで、材料開発からデバイス応用まで幅広く学びながら研究を進めています。電気電子材料の視点を深めることで、センサーとしての性能や高温特性をより本質的に理解したいと考えています。
進路選択において大きな転機となったのは、学部で受講した計測工学の授業でした。教科書に記されていた「計測技術の発展なくして、科学の発展はない」という言葉に強い感銘を受け、計測を支える基盤技術について深く学びたいと思うようになりました。その思いから計測工学研究室に所属し、そこで初めてゾルゲル複合体を用いた圧電デバイス研究に触れたことが、現在の研究につながっています。研究は思い通りに進まないことも多いですが、課題に向き合う中で少しずつ理解が深まり、自分のテーマへの興味がさらに強くなっています。今後も、材料研究とデバイス応用の両面から社会に貢献できる研究者を目指して、日々研究に励んでいきたいと考えています。

Booster Future Women Program 熊本大学ブースター未来女性プログラム 文部科学省科学技術人材育成費補助事業「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(女性リーダー育成型)」