生命の不思議
発生の神秘に魅了され研究者に。
畠山 淳
Jun HATAKEYAMA
発生医学研究所准教授 脳発生分野
生命の不思議
発生の神秘に魅了され研究者に。
Jun HATAKEYAMA
発生医学研究所准教授 脳発生分野
小さな頃からお腹の中の赤ちゃんがどうやって育つのか不思議でなりませんでした。その興味は今も続いており、大学生の時から一貫して「妊娠期間中に赤ちゃんの脳がどのようにして形成されるのか」を研究しています。ヒトの脳がなぜ大きいのか、脳のシワはどうやってできるのか、その謎の解明を目指しています。 ヒトを含む霊長類の脳形成過程を解明することは、小頭症や滑脳症のような先天性異常の理解や、未熟児の医療ケア、将来の人工子宮の開発に有用な情報をもたらすことができます。
ヒトの脳はいかにして大型化したのか?脳サイズは、脳を構成するニューロンやグリア細胞を作り出す「神経幹細胞」の数に起因し、それが少ないマウスの脳は小さくなり、その数が多いヒトは大きな脳を持つことができます。私は、発生期の脳を取り囲む「脳脊髄液」に着目し、神経幹細胞の増大に、脳脊髄液中の増殖因子や脳脊髄液による圧環境が寄与しており、ヒト脳の大型化に関係あると考えています。そこで、まず、マウス胚の脳内の力学環境を知るため、脳脊髄液で満たされた脳室内の圧測定を試みました。マウス胚の脳室は非常に小さく、その空間の圧を知ることは難しく悩んでいた時に、先端科学研究部のナノ・マイクロ工学が専門の中島雄太准教授と出会い、共同研究より脳室の圧計測器の開発に成功しました。そして、マウス胚の脳室内圧の実態を明らかにできたのです。霊長類胚の脳室内圧は、より神経幹細胞の増殖に適した圧環境なのではないかと推定され、今後、明らかにしないといけません。さらに、マウス胚の脳室内圧は、子宮の収縮・弛緩の影響で、周期的に増減を繰り返していることを発見しました。発生期の脳は、周期的に子宮からの圧迫を受けているのです。今後、子宮内の圧環境と脳サイズとの関連を明らかにし、ヒト脳の大型化における子宮内の圧環境の役割を解明したいと考えています。子宮内の圧環境の必要性が明らかになれば、早期に子宮外に出てしまう未熟児の脳障害リスクを減らすための医療ケアに貢献できると考えています。

私には、同じ研究室にロールモデルとなる女性の先輩がいました。学生時にすでに素晴らしい研究成果を出し、活き活きとされていました。頑張れば自分もそうなれるという具体的な目標があったおかげで、大学院生だった私は、1つ1つ目標を達成すべく研究に取り組め、苦労を超える研究のやりがいと楽しさを知ることができました。
そして、私のライフステージが子育てに移行した時、研究時間は大きく減りましたが、ストレスなく、両方楽しみながら研究を進められているのは、周囲の理解と協力が大きいです。上司である嶋村健児教授は、やるべきことをやっていれば各自のやり方を許容してくれる方で、子育てとの両立にも深い理解があります。教授室にベビーベッドを置き、教授に赤ちゃんを預けて実験していたことはいい思い出で、上司の理解はとても精神的に助かったことを覚えています。そして、ダイバーシティー推進室からの助成による研究補助者の存在には、研究を円滑に推進するのに非常に助けられました。さらに忘れてはならないのが、夜中に大学に戻る母、出張に行って家をあける妻に理解を示してくれる家族です。このように、良き目標と環境に、私の研究生活は支えられています。 最後に、人との出会いにも感謝です。確かな技術と知識を持った中島先生、志高く、積極的に研究に参画してくれた当時中島研究室の学生だった赤池さんとの研究は、本当に楽しく、分野を超えた共同研究であるからこその成果、新たな概念を明らかにしつつあります。また、ダイバーシティー推進室による、この共同研究への助成には心から感謝です。そして、この共同研究が、分野を跨って活躍できる次世代を担う研究者の成長する場となっていたとしたら、私自身も嬉しく思います。

女子学生未来の大学教員創造プロジェクト
赤池 麻実
Mami AKAIKE
大学院先端科学研究部育成助教
医工学部門
学部4年次から異分野融合研究に参加し、脳室の圧力を測定するデバイスの開発と計測に取り組んできました。当初は研究者の道を考えていませんでしたが、就職活動を進める中で、自分が実現したいことに挑戦し続けるためには博士課程に進む方が選択肢が広がると感じ、進学を決意しました。工学と発生医学という異なる領域で研究を進める中では、用語や考え方の違いに戸惑うこともありました。しかし、血液の流れや組織の変形といった生体内の現象も力学と深くつながっており、流体力学や材料力学などの知識が生体の理解に不可欠であることに気づけたことは、研究者としての視野を大きく広げてくれました。また、研究を続ける過程で畠山准教授をはじめとする多くの女性研究者と出会い、子育てと研究の両立には多様なスタイルがあることを知ったことも、将来を考えるうえで大きな励みとなりました。最終的に脳圧の計測に成功し、この研究で学位を取得しました。博士後期課程在学中には「博士後期課程女子大学院生研究支援事業」により論文投稿料の支援を受け、投稿した論文は掲載号の表紙に選出されました。複数の研究室を往来しながら研究を進めた経験は、固定的になりがちな視点に新たな刺激を与え、柔軟な発想や価値観の広がりにつながったと感じています。
